Column

―「水の器」のデザインの輪郭ができたのは、私の幼少期の記憶にありました。それは、晴れた日になると、母が水の入った大きなガラスの器を窓辺において、その反射を愛でている光景でした。その水が白い天井に向かって反射されている光景は美しく、当時私も、その水の移ろいをぼんやりとよく眺めていました。

社会に出て働くようになってから東京で忙しない日々を過ごすようになり、水がそんな風に美しいことなんてすっかり忘れていたなぁと、ふと気付いたことが、この「水の器」を作ろうと思ったきっかけでした。忙しい時って、頭の中がいっぱいで周りの自然に心を馳せることが難しいですよね。しかもずっとオンモードが続くと、もうすっかり忘れてしまう。でも少しでも、日常の中の川の水の流れの音や、道端に咲く花が綺麗だなぁと思える感情に出会えると、ちょっとその忙しなさから解放されて、心が豊かになるような気がします。

KORAIというブランドは当初4人ほどのメンバーで、禅や茶道などの話も交えながら試行錯誤して出来上がっていったブランドです。根底には、KORAIに出会った人たちが少しでも心豊かに過ごしてほしいという想いがあります。「水の器」に出会った人たちが、日常にある美しい自然を、少しでも思い出してくれると良いなと思っています。

文:辰野しずか、写真:小川真輝