代々木上原のなどやでの個展「a moment in time -ume-」
展覧会開催を打診されたのは、折しもパンデミックが世界中を襲い、これまでの常識について誰もが立ち止まり多くを考えていた時分。辰野自身も同様に、一人の人間として、またデザイナーとしてさまざまに思考を巡らせていました。その渦中に開催する展覧会の作品として制作されたのが、主題である「梅の飴」です。
会場となった「などや」の庭に存在した樹齢60 年ほどの梅の木からインスパイアされ、辰野自身が近年、興味をもっていた草木染めの技法で抽出された梅の木の色を、砂糖と水を煮詰めて閉じ込めた「梅の飴」は、辰野がこれまでのクライアントワークでしばしば扱ってきたガラスをはじめとする透明な素材のプロダクトさながら、そのものが生まれた自然背景を彷彿とさせ、凛とした佇まいを湛えるアートオブジェに仕上がりました。
しかしながら、この素材に用いられた「飴」はガラスや樹脂のような安定性は持たず、環境に左右されながら溶けて、結晶化し、形を変え、いずれ自然に土に還ります。
予測ができず、はかなく、循環する美しさ
ここ数年「草木染」に心惹かれています。
木や草花が持っている色は、同じ品種であっても育った場所、
季節やその個性で色彩に違いがでるため、抽出するまで予測がつきません。
人間にはコントロールができない、その自然と生まれてくる予想外の現象は、
なんとも美しいものだなと思っています。
そして、はかなく消えゆくものにも心惹かれています。
もうそこにはいないのに、人の心に残るものは、美しいと感じます。
そんなものを探っていきたいと思いました。
この展示では、などやの梅の色の記憶を、
飴という透明なケースに閉じこめました。
作品は全て土に還って欲しいと考え、飴という素材に行き着きました。
砂糖と水でできているので、多少溶けるかもしれません。
それもまた予測がつきません。
展示が終わった後は、すべて土に還します。
形は消えてしまいますが、誰かの記憶の片隅に少しでも残ることができたらと思います。
辰野しずか
Photo:Gottingham
Photo:Gottingham
Photo:Gottingham
Photo:Yukikazu Ito
Photo:Yukikazu Ito
Photo:Gottingham